心刻んだこと

Posted By on 2023年2月27日

 昔、つらいことがありました。30年以上も前のことです。
ものすごいゴン太で、乱暴で、周りから顰蹙を買っていた子どもがいました。僕が担任して、大きく変わったという自負がありました。彼も僕には一目置いて行動するようになりました。お母さんにも、ある程度信頼されていたと思います。
でも、彼は、途中から身体をこわしたこともあって、また調子が悪くなり、卒業を前にして、学校を去っていきました。そのときの経過はほとんど僕に相談もなく、ただ、荒れて荒れてという感じになってしまっていたのです。
僕としたら、せっかくここまで育てたのに・・・とか、なんで僕に言って来ないんだというような、感じでした。誰もが手を付けられなかった子どもをこんなに変えた、というプライドができてしまっていたんですね。
最後の日に、お母さんが話したいとおっしゃってきたときも、
「特に、話すことはありません。」
とまで言ったくらいです。
 ともかく、学校へ来て頂いて話すことになりました。僕は、腹が立っていました。
勝手なことばかり言って、彼をここまで変えたのは自分なんだぞ・・・・、と、話を聞くかまえなんて全くなかったのです。
お母さんの前に座りました。僕の目は、たぶん、つり上がっていたと思います。いっぱい反論してやろうと思っていました。
でも、そのとき、お母さんが最初におっしゃった一言が、僕の心を刺しました。

「先生は、一番いてほしいときに、いてくれませんでした。」

身体が凍りました。
そこから先、言葉が出ませんでした。お母さんの話される言葉が、静かに頭の上を通り過ぎていきました。
お別れするときに、一言、
「申し訳ありませんでした。」
と、頭を下げました。

 どんなに子どものためにしてあげても、一番必要なときにいてやれなければ、なんの値打ちもありません。
 そこから、ずっと、その言葉を抱いて教師をしてきました。忘れたことは、ありません。

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