子育てのヒント

◆ 頑固はていねい

 子どもの個性について考えたい。

  一年生でも、時々、頑固な子どもがいる。ひらがな一つの練習で、自分が納得するまで何度も消して書き直す。

「そこまでしなくても、いい字が書けているよ。」

と言っても、なかなか止められない。

  そのぶん時間がかかる。効率が悪いから他の子どもたちが全部終わっても、まだまだ。

  お母さんは、

「この子は何をさせても遅いし、言うことを聞いてくれません。」

とおっしゃる。

 親としてはあせるだろう。やきもきする。

  でも、こういう子どもは、じっくりタイプであることが多い。じっくりと身につけたことは、簡単に忘れないこともよくある。(頑固の話が「じっくり」の話になってきたね。)

  じっくりタイプに「早く、早く。」と言ってはいけない。その子のアイデンティティを否定するんらだ。

「あなたはじっくりタイプなんだから、ていねいにていねいにすればいいんだよ。」

と言うべきだ。

 「そんなことをしていたら、みんなのペースに合わない。早くさせるようにするのも教育だ。」

と言う考えもある。

 その通り。

 けれども、そのタイプに「早く、早く。」と言っても、なかなかそうはいかないから、言っている方がだんだんあせってくる。声が大きくなる。荒くなる。

  教育で最も難しいのは、「待つ」ことだと思っている。いろいろな状況があっても子どもを「待つ」には、根性がいる。

  将来の不安を感じながらも、その子らしさを大切にして「待つ」ことは、苦しいものだ。

 でも、少しぐらいは待ってあげたらどうかなあ。作業が早くなっても、自己否定する子どもになってしまったら、元も子もないのではー。

 ◆ じっくりタイプ

 子どもの個性を考える Ⅱ

  三十年近く前に読んだ週刊誌の記事を、今でも良く覚えている。

  お名前は忘れてしまったが、京大医学部の名誉教授で、文化勲章か何かをとられた世界的にも高名な学者さんが、雑誌のインタヴィユーを受けていた。

――私は、先生に恵まれました。信じられないかも知れませんが、私は、じっくりタイプで、何をしても人よりも時間がかかり、いつも課題の終わるのが最後でした。

 ところが、中学で出会った先生は、

「もっとていねいにやりなさい。もっとじっくりやりなさい。」

と言ってくれました。私は、安心してじっくりと取り組むことができました。

  医学部を卒業して脳の勉強をするため、ドイツに留学しました。そこでの話です。ある時、脳医学の権威の博士が、私がかいた脳のスケッチを見て、

「これではだめです。あなたは、ちゃんと対象物を見ていない。もっとていねいに書きなさい。」

と言った。それで、もう一度脳をじっくりとていねいに観察したら、これまで見えていなかった脳の血管の付き方の細かいところとかが、よく見えてきた。それから私は、ていねいにていねいに脳を調べて、ここまでの仕事ができるようになってきたのです。

  私が教わった先生は、どなたも

「早く、早く。」

とは、言いませんでした。

「もっとていねいに、もっとじっくりと。」

私に言ってくださったのです。――

  このような内容だったと思う。三十年の間、このことをいつも頭に置いて、じっくりタイプには急がせないように心がけてきた。心がけてきただけで、できたとは思っていない。それぐらい「待つ」ことは難しいのだ。

 ◆ 調子乗りの子ども

 子どもの個性を考える Ⅲ

  調子に乗りすぎる子どもって、どこにでもいるのではないだろうか。

  本来、子どもと言うものは、調子に乗るものである。いや、調子に乗らないといけない。調子に乗って、勢いでいろんなことができるようになっていくものだ。

  でも、「調子乗り」の子どもは叱られる。

 先生にとっては、若干迷惑な子どもだ。おうちでも、顰蹙をかうことが多いだろう。面白いのは、調子乗りのお兄ちゃんがいたら、妹や弟は調子乗りではないという場合が、けっこうあるということだ。

  「反面教師」なのかも知れない。お兄ちゃんの叱られる様子や周りに煙たがられる姿をずっと目にしてきたからだろうか。

  さて、「調子がいい」と「調子に乗りすぎる」との境界線は、どこにあるのだろうか。

 それは見ている大人の側が持っている。

 ということは、人によって違うということだ。絶対的な「調子もん」はいない。クラス全体が(先生も含めて)調子乗りばかりだったら、一人の子だけが調子もんとして目立つことはない。

 「おい、みんな、こんなことしようぜ!」

「あーし!賛成。」

っていう感じでね。

  調子乗りのいないクラスは、静かで活気がない。

  このごろこのクラスは静かだなあと思っていたら、調子乗りが一週間ほど休んでいた。

  僕は好きだな、調子乗り。

 案外、周りの子どもたちに気遣いしている子どももたくさんいるが、そうは見えないところに彼らの難しさがある。

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