なんとも羨ましい

Posted By on 2016年8月31日

『果てなき便り』 津村節子
この本は、『戦艦武蔵』の吉村昭と芥川賞作家の津村節子夫婦の
手紙のやりとりを、ただ羅列しているだけといってもいいだろう。

作者本人も、「とりとめのない手紙の羅列」と呼んでいる。

僕が生きてきた時代と
ただ純粋に文学を糧とした二人の人生がリンクされる。
僕の世代だからこそ、いろいろなことが思い出されて
二人の手紙に重なる。

昭和を彩った作家たちがふつうに登場してくる。
それもまた、おもしろい。
今のように「〇〇賞」という文学賞が乱立していない時代。
文学を志す者にとって同人誌の意味は大きかった。
いかにして認められるか、大変な時代だった。
簡単には作家になれなかった。
本当にプロしか認められなかった。
片手間の小説がマスコミでもてはやされて売れていく今とは、違うということだ。

二人の作家が伴侶として愛し合い続けたことも美しいが
お互いの才能を敬愛し、作家として生き続けたということが
静かにひびいてくる。
書くということが、まさしく生きることそのものであった。
それを夫婦で全うした二人は、なんとも羨ましい人生だなあ。

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