くつ下くん、すてられなくて良かったね

Posted By on 2012年1月6日

札幌の講演原稿がなかなか進まないのは、レコード聴きながらしていることもあるけれども、

それよりも、作文教育の話がテーマだからである。

そのために、文集や書いたものを読み返していると、つい、読み込んでしまう。

そのときのことを思い出してしまう。

だから、そこで立ち止まってしまうのだ。

例えば、十年いじょうも前だが、次のような文章を書いて出していた。

「おとといから、教室にピンクのくつ下が片一方、落ちていました。

せんたくしたばかりで、アイロンも当ててありました。

はきかえ用に、持ってきたのでしょう。

『これは、誰のですか。』

と、たずねても、だれも言ってきません。

きのう、こう言いました。

『このくつ下は、こんなにきれいにアイロンもあたっているよ。お母さんが心をこめてしてくださったのでしょう。このくつ下には、お母さんの心がこもっています。それをすてちゃっていいのかなあ。

明日になったら、先生はこのくつ下をすてます。君たちのだれかのお母さんの心をすてることになるのは残念だけど、仕方ないね。』

一年二組のみんなは、だまって聞いていました。とても、残念そうに見えました。

すると、とつぜん、T君がこう言い出しました。

『クリスマスまでおいておいて、サンタさんのプレゼント入れにしたら、いいんじゃないの。』

それを聞いたぼくは、なんだかとてもうれしくなりました。

『なるほど。それはいいことを思いついたね。それだったら、だれかのお母さんの心も、だいじにされることになるね。ぜひそうしよう。』

ほくがそういうと、一年二組のみんなも

『うん。それがいいよ。そうしよう。』

と、うれしそうな声で言いました。」

この話には続きがある。

しばらく立ってから、自分の子どものくつ下だと気づかれたお母さんが、

「みなさんにご迷惑をおかけしました。」

と、とても大きな素敵なくつ下を持ってきて、教室の後ろに掲示してあるそのピンクのくつ下と換えてくださったことだ。

心をつなげていくことを考えて教育していれば、こんな良いことが、ときどきある。

 

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